米EPA冷媒規制をめぐる攻防 バイデン政権とトランプ政権での違い

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環境保護か、生活コスト削減か――冷媒市場を揺るがすアメリカEPAの方針転換

2025年8月21日、米国環境保護庁(EPA)のリー・ゼルディン長官は、副大統領J.D.ヴァンス氏とともにジョージア州ピーチツリーシティにあるAlta Refrigerationを訪問しました。そこでゼルディン長官は、家庭の生活コストを引き下げることがEPAの使命だと強調し、冷媒規制の見直しを推し進める姿勢を明らかにしました。

今回議論の中心にあるのは、Technology Transitions Ruleと呼ばれる冷媒規制です。これはバイデン政権EPAが施行したもので、地球温暖化の原因となるHFC(フッ素化ガス)の使用を段階的に削減し、低GWP冷媒への移行を義務付けています。例えば、2025年1月からは家庭用エアコンやヒートポンプに使用される冷媒のGWP上限を700に設定し、高GWP冷媒の新規使用を禁止しました。この規制は2036年までにHFCの生産と消費を85%削減するという長期目標に沿ったものです。EPAの試算によれば、2050年までに二酸化炭素換算で最大8億7,600万トンの排出削減につながり、消費者や企業は合計45億ドルの節約が可能になるとされます。

しかし、この規制は現実の市場で深刻な影響をもたらしています。低GWP冷媒の代表格であるR-454Bはすでに供給不足となり、HVACシステムの価格は最大30%上昇しました。また、既存のR-410A冷媒は生産削減により価格が高騰する懸念があり、結果として食品価格の上昇、半導体製造のコスト増、家庭用エアコンの手の届きにくさにつながっています。さらに、アンモニアや二酸化炭素といった代替冷媒は毒性や可燃性の問題も抱えており、安全性や実用性の観点からも課題が残されています。

この点を問題視するのがトランプ政権EPAです。ゼルディン長官は「規則の誤りを正すことが勤勉な国民に利益をもたらす」と強調し、規制緩和を進めています。すでに2025年3月12日には、米国史上最大規模の規制緩和の一環としてこのルールの再検討を発表しました。現在、その見直し提案は行政管理予算局(OMB)で審査中で、承認されれば一般公開され、国民からの意見募集が行われる予定です。

業界と環境団体の反応も真っ二つに分かれています。冷凍空調業界団体(AHRIやPHCC)は規制の維持を支持し、すでに投資を終えた企業への不公平を避けるべきだと主張しています。一方、シエラクラブやNRDCなどの環境団体は、見直しは「気候変動対策への直接的な攻撃」だと強く反発し、むしろ規制の強化を求めています。

つまり、バイデン政権EPAは環境保護を優先し、地球温暖化ガス削減のために厳しい規制を進めました。対して、トランプ政権EPAは生活コストの上昇や産業界への悪影響を理由に規制緩和を推進しています。この対立は、アメリカ国内の冷媒市場だけでなく、国際的なサプライチェーンにも影響を及ぼす可能性があります。日本企業にとっても、低GWP冷媒の安定供給や設備コストに関わる重要な問題であり、今後の展開を注視する必要があります。

現時点でのTechnology Transitions Ruleの概要

  • 2025年1月1日以降、地球温暖化係数(GWP)が700を超える冷媒を使用する住宅用ヒートポンプ・空調システムの新規設置を禁止
  • 2026年1月1日以降、GWPが700を超える冷媒を使用するVRFシステムの新規設置を禁止

とする規則を定めています。

ただし、建設業者は新築住宅(戸建て・集合住宅)において、かなり前の段階で設備を発注するため、既に流通しているシステム部品が適合日を過ぎても残る可能性があることが懸念されていました。

そのためEPAは次のような措置を講じています。

  • 住宅用ヒートポンプ・空調システムについて(2023年12月26日発表)
    2025年1月1日以降の適合日に対応するため、2025年1月1日より前に製造または輸入された高GWP HFC機器については、2026年1月1日まで設置可能とする暫定最終規則を公布。
  • VRFシステムについて(2024年12月12日発表)
    2026年1月1日からの適合期限に関し、すべての部品が2026年1月1日以前に製造または輸入されていれば、2027年1月1日まで設置可能
    さらに、2023年10月5日以前に建築許可を取得したプロジェクトについては、2028年1月1日まで設置を認める

重要キーワード3つの解説

Technology Transitions Rule
バイデン政権EPAが導入した冷媒規制。HFC削減を目的とし、2036年までに85%削減を目指す。環境保護が狙いだが、コスト上昇や供給不足を招いている。

② バイデン政権EPAとトランプ政権EPA
バイデン政権EPAは「環境保護を優先」し、厳格な規制を推進。トランプ政権EPAは「生活コストと産業への影響」を重視し、規制緩和を目指す。対照的な姿勢が鮮明。

R-454B冷媒
低GWP冷媒の代表格で、多くのメーカーが新規システムで採用。しかし供給不足が深刻で価格高騰を招いており、市場全体の混乱の原因となっている。

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