低GWP冷媒を採用する理由と各国の違い
現在広く使われているフルオロカーボン系冷媒(HFCやHFO)は、環境への影響が大きいことから世界的に規制が強まっています。
HFC冷媒は地球温暖化係数(GWP)が非常に高いため、ヨーロッパの「Fガス規則」やアメリカの「AIM法」で段階的な削減が進められています。
一方、HFO冷媒は低GWPで有望視されるものの、分解されると「TFA」という物質に変わり、自然界で分解されにくいため “PFAS(永遠の化学物質)” として規制対象に浮上しています。
つまり、
- HFCは「温暖化リスク」
- HFOは「PFASリスク」
という課題を抱えており、どちらも長期的には規制強化を免れません。
このため、業界では自然冷媒(CO₂、プロパン、アンモニアなど)が次世代の本命として注目されています。GWPが極めて低く、規制リスクも小さいため、持続的に利用できる冷媒と期待されているからです。
ただし、各国の政策には違いがあり、EUは自然冷媒への本格的なシフトを打ち出しているのに対し、アメリカはまずR32やR454BといったA2L低GWP冷媒を中心に移行を進める姿勢を見せています。
この差は、今後の市場や技術選択に大きな影響を与えることになりそうです。
EUが本格始動!Fガス規制の最新動向とは?
2024年3月11日、EUで新たなFガス規制(EU規則2024/573)が施行されました。高い温室効果を持つ冷媒(HFCなど)の使用を大幅に削減し、2050年までにほぼゼロを目指す、気候中立への大きな一歩です。
施行スケジュール
- 2024年3月11日:規則施行
- 2025年1月1日以降:段階的に具体的な制限がスタート
特に家庭用・業務用エアコンやヒートポンプ、冷凍機など、幅広い分野で規制が強化されます。
規制のポイント
- 単一スプリットAC(5〜12kW):
GWP(地球温暖化係数)750以上の冷媒は 2025年から使用禁止 - その他の分野も順次、GWP150以下やゼロGWP冷媒へ移行
- 2036年までにHFCを85%削減
- 2050年にはほぼ全廃を目標
今後使えなくなる冷媒
- R410A(GWP=2088)HFC冷媒
- R404A(GWP=3922)HFC冷媒
- R134a(GWP=1430) HFC冷媒
いずれも従来よく使われてきた高GWP冷媒ですが、使用制限の対象となります。
注目される代替冷媒と課題
- R32(GWP=675)HFC冷媒:効率は高いが「中GWPのため繋ぎの役目・微燃性(A2L)」
- R290=プロパン(GWP=3)自然冷媒:自然冷媒だが「高可燃性(A3)」
- R744=CO₂(GWP=1)自然冷媒:環境負荷は小さいが「高圧設計によるコスト高」が課題
- R717=アンモニア(GWP=0)自然冷媒:高効率だが「毒性」あり
- HFO系(例:R1234yf):低GWPだが「コスト・微燃性・PFAS汚染」が問題
欧州これからの展望
2025年以降はさらにラベリングや報告義務も強化され、業界全体での透明性が求められます。冷凍・空調・ヒートポンプ業界は、これまで以上に環境性能と安全性のバランスを取った冷媒選びが必須となりそうです。
EUのFガス規制は、世界の冷媒市場に大きなインパクトを与えることは間違いありません。
アメリカも本格始動!AIM法によるHFC削減の行方
アメリカでは2020年に制定された AIM法(American Innovation and Manufacturing Act) に基づき、HFC冷媒の段階的削減が進められています。国際的な気候合意「キガリ改正」に沿った取り組みで、2050年を見据えた冷媒転換が加速しています。
施行スケジュール
- 2022年1月1日:HFC削減開始
- 2025年1月1日以降:製品ごとの個別制限が順次スタート
- 2036年までに85%削減が最終目標
最新の動きとして、「Technology Transitions Rule」最終版(2023年10月) が公表され、さらに 2024年12月にEPAがファクトシートを更新 しました。
規制のポイント
- 自己完結型AC/ヒートポンプ:GWP700以下(2025〜)
- 家庭用冷蔵庫:GWP150以下
- 商用冷凍機器:GWP150〜300以下(用途により異なる)
- VRF/ダクトレスAC:GWP700以下を目指すが、規制開始は2026年以降に延期の可能性あり
今後使えなくなる冷媒
EUと同様、以下の高GWP冷媒が段階的に使用禁止へ:
- R410A
- R404A
- R134a
注目される代替冷媒と課題
- R32(GWP=675):高効率だが微燃性(A2L)
- R454B(GWP=466):R410A代替として有力、A2Lだが低リスクとされ普及拡大中
- R290(プロパン)、R744(CO₂)、HFO群:環境性は高いが、安全規格やインフラ対応が課題
今後の展望
- 2036年までにHFCを85%削減
- 2025年以降のGWP制限は進行中だが、2025年7月時点では新政権のもとでEPAが再検討中
特にVRFシステムの規制は延期や条件緩和の可能性が指摘されています。
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