- 米国環境保護庁(EPA)はFガスとTFAをPFASの定義から除外し、化学物質ごとに規制を判断。
- カナダと米国の一部州(カリフォルニア、メイン州など)はOECD定義を採用し、PFASを包括的に規制。
- 今後、米国内での規制のばらつきが広がり、国際調和が課題となる可能性。
PFAS定義を巡る米国と国際社会の乖離、冷媒業界への影響も拡大
米国環境保護庁(EPA)は、2023年10月に発表した新ルールで、PFASの定義を独自に設定し、フルオロカーボン(Fガス)やその分解生成物であるトリフルオロ酢酸(TFA)を含めない方針を明確にした。これにより、HFO-1234yfなどの冷媒や、それが大気中で分解して生じるTFAはPFAS規制の対象外となる。
EPAの定義は、「2つの隣接する炭素原子のうち、1つが完全にフッ素化され、もう1つが部分的にフッ素化された構造を持つ化学物質」とされており、従来のOECD定義(少なくとも1つの完全にフッ素化された炭素を含む)とは異なる。これにより、科学者の間では、定義の緩和による規制回避や健康影響の軽視が懸念されている。
一方、カナダ政府はOECD定義に基づき、HFOやHCFOもPFASとして扱う方針を示し、2024年7月にリスク管理スコープ報告を公開。代替物の可用性、置き換えによる社会的・経済的影響、製品中のPFAS含有量などの情報収集を進めている。最終的なPFAS管理方針と法的措置は今後発表予定である。
米国内でも、メイン州やカリフォルニア州など23州がOECD準拠の広義定義を採用し、FガスやTFAを含む製品を2032年または2040年以降に禁止対象とする動きを見せている。特にメイン州では、2024年8月に改正されたPFAS法で冷暖房機器を含むPFAS製品の販売を2040年から禁止することを決定。また、HFO-1234yfのような物質も「意図的に添加されたPFAS」として対象とし、TFAの大気中生成を防止する狙いがある。
このような国内外での定義や規制方針の違いは、冷媒業界や製造業界にとって対応が難しく、将来的な国際標準の必要性が浮き彫りとなっている。
キーワード
- PFAS(ペルおよびポリフルオロアルキル物質):極めて安定した化学構造を持ち、環境中に長期間残留することから健康被害が懸念されている。
- TFA(トリフルオロ酢酸):HFO冷媒の分解生成物で、血中にも検出されており、OECD定義ではPFASに該当する。
- OECD定義 vs EPA定義:OECDは広義でPFASを捉え、FガスやTFAも含むが、EPAは限定的な構造基準を採用し、これらを除外している。
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