地球温暖化対策の一環として、冷媒(特に HFC)の温室効果ガス排出量を抑える規制が世界中で強化されており、R-410A(GWP約2,088)がその対象の中心です。この規制の流れの中で、低 GWP でありながら性能を維持できる冷媒として R-454B が注目を集めています。
R-454B は、R-32 と R-1234yf の混合冷媒で、GWP 約 466。R-410A と比して温暖化影響を大きく減らすことができ、2025年以降の規制枠・市場ニーズと合致するものとして、導入・供給の「山場」を迎えています。
アメリカ市場のトレンドと規制動向
アメリカにおける動き:AIM Act とその影響
- AIM Act(American Innovation and Manufacturing Act) によって、HFC の使用や生産に制限が設けられており、特に GWP が 750 を超える冷媒(R-410A 等)は、新規住宅・軽商業用 HVAC 分野では 2025 年以降使用禁止。これが R-454B への急激な需要シフトを引き起こしています。
- この需要急増が供給の逼迫をもたらしており、価格高騰と納期遅延が顕在化。特に R-454B 用の A2L 規格ボンベ(シリンダー)、原材料、輸送・梱包・混合能力などサプライチェーン上の制約がボトルネックになっています。
- メーカー・施工業社側は、出荷体制の改善、事前充填(pre-charge)量の拡大、ディストリビュータへの優先割り当てなど対応を進めています。 Carrier などは「注文から 2 週間以内に納品可能」体制を確立し始めているとの報告があります。
- トランプ政権のEPAが波紋を広げています。EPA長官が「移行は拙速だ」として、R-410A機器の設置期限をさらに延長する可能性に言及しました。
R-454b冷媒不足危機
供給不足の連鎖的要因
R-454b市場の現在の混乱は、複数の要因が複雑に絡み合った結果です。
- 要因1:需要の急増 EPAの2025年1月の義務化は、業界全体が同時に舵を切ったため、需要が急激に跳ね上がりました。
- 要因3:サプライチェーンと関税 パンデミック後の物流問題、原材料不足、および国際的な輸送の遅延が状況を悪化させています。中国からの輸入品に対する関税引き上げも、コストを押し上げる一因となっています 。
- 要因2:シリンダーのボトルネック DOT認定のA2L対応シリンダーの深刻な不足を挙げており、これが流通を制限する中心的な要因となっています 。
- 要因4:コントラクターによる買占め 2020年の「トイレットペーパー危機」を彷彿とさせるパニックにより、一部のコントラクターがR-454bを買い占め、供給不足をさらに悪化さる要因となりました。
メーカーの動き
Carrier (米国):R-454B冷媒の2週間以内納品体制を整備 – Carrier Global社は2025年8月22日のプレスリリースで、R-454B冷媒の注文を発注から2週間以内に出荷できる体制を整えたと発表しました。これにより最低・最高発注数量や他冷媒との組み合わせ条件なしで注文可能となり、顧客が必要な量を柔軟に確保できるようになっています。業界では需要急増で供給が逼迫しており、Carrierは供給安定化に向けた顧客支援策と位置づけています。
Rheem、R-454B冷媒不足に対応し初期充填量を一時的に増加 – RheemはHVAC業界でのR-454B冷媒供給不足を受け、全ブランドの空調・ヒートポンプ製品の工場初期充填量を一時的に増加しました。対象は13.4および14.3 SEER2のエアコンと14.3 SEER2のヒートポンプで、これにより30フィートの配管にも追加冷媒なしで対応可能となります。価格据え置きのまま施工時の補充作業を軽減し、契約業者や流通パートナーの負担を抑える狙いがあります。Rheemは現場の混乱を最小限に抑える戦略的対応として、この措置を打ち出しました。
Lennox、R-454B冷媒不足に対応し初期充填量を一時的に増加 – LennoxはAlliedブランドを含む住宅用・小規模商業用空調機において、R-454B冷媒の工場初期充填量を一時的に増加させました。追加冷媒の現場使用を減らすことで施工業者や流通の負担を軽減する狙いがあります。
長期的な展望
HVAC業界の長期的な展望としては、まず冷媒の持続可能性が挙げられます。R-454Bは移行の第一歩にすぎず、EUのようにさらに超低GWP冷媒や自然冷媒の導入が進む可能性があります。また、未来のHVACは単に冷媒の選択にとどまらず、IoTやAIと連携する「スマートシステム」へと進化していきます。さらにA2L冷媒で義務化されたセンサーが活用されることで、リアルタイムの監視や予測保全が実現し、効率性と安全性が一層高まるでしょう。市場ごとの規制や制約によって地域的な戦略も異なり、米国とEUはそれぞれ独自のGWP制限に基づいた道を歩み続けるとみられ、これがアジアを含む他地域の製品設計や技術採用にも大きな影響を与えることが予想されます。
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