チューリッヒ15,000世帯に再生熱で“グリーン暖房”
アイルランドに本社を置くJohnson Controlsは、2025年9月、スイス・チューリッヒ市の公共事業局「ERZ(Entsorgung & Recycling Zurich)」と連携し、都市全体に“再生可能な熱”を供給する革新的なヒートポンププロジェクトを発表しました。
このプロジェクトでは、廃棄物焼却施設から回収した熱を再利用し、市内の約15,000世帯に暖房を供給します。稼働は2027年を予定しており、ゼロ地球温暖化係数(GWP)の冷媒「アンモニア」を使用するヒートポンプとしてはヨーロッパでも最大規模となります。
背景には、欧州全体で進むエネルギー転換(ヒートトランジション)の流れがあります。熱エネルギーは産業全体の60%以上を占め、その中でも「廃熱」は再利用されていない最大のエネルギー資源とされています。EU域内で発生する産業廃熱だけで、家庭の中央暖房や給湯をすべてまかなえるという試算もあるほどです。
Johnson Controlsは、この大きな可能性に着目。チューリッヒでは、焼却施設から出る煙の熱(低温)を6基の高性能スクリューコンプレッサーを使って抽出し、合計出力42メガワット(MW)の熱を地域の熱供給網(地域暖房)へと供給します。
また、3対のヒートポンプを直列に配置して段階的に温度を上げることで、従来比で約30%の効率向上が見込まれています。さらに、複数の熱源を組み合わせるシステムの先頭にヒートポンプを置くことで、施設全体としても非常に効率的な運用が可能になります。
Johnson ControlsのEMEA(欧州・中東・アフリカ地域)代表、リチャード・レック氏は「2024年だけで当社は顧客の暖房コストを平均53%削減し、CO₂排出量を60%削減しました。チューリッヒでの取り組みは、再生熱の可能性を生かし、都市の持続可能性を大きく前進させるものです」と述べています。
また、ERZのユルク・ブルーダー氏は「チューリッヒ市は2040年までのカーボンニュートラル達成を目標としており、化石燃料に頼らない熱供給の拡大はその中心的な取り組み。Johnson Controlsとの連携は、目標達成に向けた具体的な一歩です」と語っています。
今回のプロジェクトは、Johnson Controlsが今後注力する都市規模・産業向けの持続可能ソリューションの象徴的事例です。実際、同社は2025年に住宅・軽商用向けのHVAC(空調)事業をBoschへ売却し、それ以降は大規模施設や地域全体を対象とするインフラ分野に特化しています。
また、Johnson Controlsは業界に先駆けて産業用ヒートポンプの商用化を進めてきた企業であり、現在もCO₂やアンモニアなどの低GWP冷媒の導入を積極的に推進しています。今後も、産業、病院、自治体など多様なパートナーと連携しながら、環境負荷の少ない都市のエネルギー転換に貢献していくとしています。
重要キーワード3つの解説
Johnson Controls
スマートビル、エネルギー管理、産業用ヒートポンプなどの分野で世界をリードするグローバル企業。2025年に住宅・軽商用HVAC事業をBoschに売却後、都市や産業向けの大規模ソリューションに注力している。
アンモニア冷媒(Ammonia / NH₃)
地球温暖化係数(GWP)がゼロである自然冷媒。扱いには安全面の配慮が必要だが、エネルギー効率が高く、次世代の産業用冷暖房システムの鍵を握ると注目されている。
地域暖房(District Heating)
都市全体で一括して熱(蒸気や温水)を供給するシステム。集中型で効率がよく、再生可能エネルギーや廃熱を利用することで大きなCO₂削減効果がある。
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