- 空気対空熱ポンプは商業施設で主流、家庭用途はまだ限定的
- 主なシステムはミニスプリット、マルチスプリット、VRFの3種類
- 現行の冷媒R32は温暖化係数(GWP)規制の対象、R290が代替候補
- スマート制御技術の進化でエネルギー効率と利便性が向上
- 専門技術者不足とFガス規制が普及の課題、革新技術も登場
省エネ・脱炭素の切り札となるか、英国における空気対空熱ポンプの導入と可能性を探る
空気対空熱ポンプ(air-to-air heat pump)は、英国では「エアコン」の名で商業施設に広く普及しており、全体の95%が非住宅向けです。冷暖房両対応の可逆型システムが主流で、空気間の熱交換を行う「カルノー冷却サイクル」を利用します。主要なシステム形態には、単一室向けのミニスプリット、多室対応のマルチスプリット、そして商業用のVRF(可変冷媒流量)があります。
機器の制御面では、スマートフォンからの遠隔操作やモーションセンサーによる省エネ運転など、ユーザー体験を高める機能が充実。室内ごとの温度制御が可能なため、高齢者の単身世帯にも適しています。
しかしながら、住宅市場への普及には課題も多く、Fガス(温暖化効果ガス)規制の強化により、従来のR32冷媒は将来的に使用制限の対象となる可能性があります。代替冷媒としてR290(プロパン)が注目されていますが、可燃性の高さが安全上の懸念材料です。
設置に関しては、従来の湿式暖房システムを持たない建物への後付けが容易な反面、冷媒配管が必要で、Fガス資格を持つ技術者の不足が深刻。現状では政府の補助対象(BUS)にも含まれておらず、制度的支援も限定的です。
技術革新の面では、除湿と冷却を分離したシステムや、半導体冷却、固体型ヒートポンプ「ActiveWall」など新技術が登場しつつあります。これらが実用化されれば、さらなる省エネ・低コスト化が期待されます。
キーワード
- 空気対空熱ポンプ(Air-to-Air Heat Pump):外気から室内への熱移動により暖房・冷房を行う装置。ダクト式やダクトレス式がある。
- Fガス規制:高GWPのフッ素系ガスの使用制限に関する政策。冷媒R32の将来的な使用制限が課題。
- R290(プロパン):低GWPの自然冷媒。環境負荷が低いが、可燃性が高く、安全対策が必要。