エアコンや冷蔵庫に欠かせない冷媒は、快適な生活を支える一方で、大気に漏れると二酸化炭素の数千倍もの温室効果を持つ危険な物質です。これまでも冷媒の適切な処理は求められてきましたが、現場の業者にとっては回収容器や処理費用が負担となり、時にコストを理由に十分な対応がなされないこともありました。
そこで2025年9月、Hudson TechnologiesとDC Sustainable Energy Utility(DCSEU)がワシントンDCで全米初の冷媒回収・再生プログラムを立ち上げました。この取り組みの最大の特徴は、従来の省エネプログラムが「電力や燃料の節約量」を成果としていたのに対し、今回は「温室効果ガスの削減量」を直接評価指標にしている点です。
Hudsonは業者に回収の方法を教え、適切な容器を無償で提供し、輸送費も負担します。さらにHudsonとDCSEUの双方が金銭的なインセンティブを支払うことで、冷媒を回収するほど業者の収益になる仕組みを整えました。これにより、これまで「費用がかかるだけ」だった作業が「新しい収益源」となり、冷媒回収が自然と進むようになります。Hudsonは回収した冷媒を精製し、新品同様の品質で市場に再販売できます。一方でDCSEUは、地域の温室効果ガス削減目標を達成する責務があるため、この仕組みに投資する価値があります。
このモデルの環境効果は大きく、Hudsonによれば再生冷媒の利用は新規製造冷媒に比べて最大70%の排出削減につながります。また、古い空調機器を廃棄する際に冷媒を確実に回収できれば、既存の省エネプログラムの効果も高まり、雇用の創出や地域経済の活性化にも寄与します。
重要キーワード3つの解説
冷媒(Refrigerant)
エアコンや冷蔵庫に使われる物質。便利だが、大気に漏れると強力な温室効果ガスとなる。
GHG削減
温室効果ガスの排出を減らすこと。冷媒回収はCO₂削減よりも大きな効果を持つ場合がある。
再生冷媒(Reclaimed Refrigerant)
使用済みの冷媒をHudsonのような専門業者が精製し、新品同様に再販売するもの。資源循環の要。