ウイルス対策や煙の除去に活躍する空気清浄機――でも、その副作用は?NISTが解決に乗り出す
コロナ禍や山火事の影響で、家庭用の空気清浄機を使う人が急増しました。部屋の空気をキレイにしてくれるこの便利な機械ですが、実は一部の空気清浄機が新たな化学物質を発生させていることをご存じでしょうか?本来は空気をキレイにするはずの機械が、逆に空気を汚してしまうことがあるのです。
しかし、これまでその副産物(有害な化学物質)を正確に測定する方法がなかったため、問題の大きさや製品ごとの差がわかりづらい状況が続いていました。
そこで今回、アメリカ政府の技術研究機関「NIST(米国国立標準技術研究所)」が中心となって、空気清浄機から発生する有害物質を測定するための新しい標準テスト方法を開発。2025年9月、その方法が正式に発表されました。
NISTは、アメリカの産業や暮らしを支える“計測と標準化”の専門機関で、温度や長さ、化学物質の濃度など、さまざまな分野の「測る基準」をつくっている信頼ある公的機関です。EPA(米国環境保護庁)など他の政府機関とも協力し、環境や健康に関わる測定の精度を高める取り組みを行っています。
今回の新しいテストでは、空気清浄機を密閉された部屋で4時間稼働させ、オゾン・ホルムアルデヒド・超微粒子の3つの物質が発生していないかをチェックします。NISTの研究チームは、特別なチャンバー(実験室)を使って、空気中のわずかな変化まで正確に分析する技術を確立しました。
これにより、メーカーは自社製品の安全性を客観的に確認でき、消費者も機種を公平に比較できるようになります。加えて、今後はこれらの有害物質に対して「排出量の上限」などの基準が定められる可能性もあります。
空気清浄機のなかには、UVライトやイオン化技術、化学反応を利用するタイプもあります。これらは確かに空気中のウイルスや微粒子を分解してくれますが、その過程で逆に有害な分子が発生するリスクも抱えているのです。
NISTの研究者ポッペンディック氏は、「新しい分子が空気中で別の化学反応を起こすと、ホルムアルデヒドや超微粒子に変化する可能性がある」と説明しています。
この新しい標準テストは、ASTM International(国際的な標準化団体)によって公開され、今後の空気清浄機の評価・規制・開発の土台になると期待されています。科学に裏付けられたこの方法が、より安心できる室内環境を実現する一歩になるかもしれません。
重要キーワード3つの解説
NIST(National Institute of Standards and Technology)
アメリカの政府機関で、計測技術と標準化を専門とする研究所。さまざまな産業や製品、環境・健康に関わる基準作りに携わり、EPAなどの行政機関と連携して公正な測定の土台を築いています。
オゾン・ホルムアルデヒド・超微粒子
空気清浄機の副作用として出る可能性がある有害物質。オゾンは高濃度になると呼吸器に悪影響を与えるガス、ホルムアルデヒドは発がん性があり、超微粒子は肺に深く入り込みやすい。
ASTM International
製品やサービスの安全・品質に関する国際的な標準(スタンダード)を作る団体。今回のテスト方法もこの団体が公式に認定しており、世界中で利用されることが期待されています。
