インドでは都市化と気温上昇が進み、冷房需要が急速に拡大しています。現在エアコン普及率はわずか8%ですが、2038年には40%に達すると見込まれ、冷房需要は8倍に膨らむと予測されています。その結果、2050年までに電力需要の45%が冷房に費やされ、温室効果ガス排出量は2017年比で90%増加する可能性があります。単なる効率改善だけでは対応できず、抜本的な対策が求められています。
こうした課題に対して、インドの州政府や企業は動き始めています。例えばグジャラート州では熱中症対策計画を進め、マハラシュトラ州は低GWP冷媒の導入や都市計画によるパッシブクーリングを推進しています。また、地域冷房(District Cooling, DC)が注目されており、インド冷房行動計画(ICAP)はこれを中核的戦略と位置づけています。
さらに、冷房を「サービス」として提供するCooling as a Service(CaaS)モデルが広がりつつあります。これは設備投資を顧客が負担せず、プロバイダーが設計・運用・資金調達まで担う仕組みで、効率性と信頼性を同時に実現します。こうしたモデルは、単に設備を導入するのではなく、長期的に持続可能で低コストな冷却を保証する点で革新的です。
また、低GWP冷媒や再生可能エネルギーの統合も進んでいます。従来の冷媒はCO2の数千倍の温室効果を持つものもありましたが、HFOやCO2冷媒への移行により排出削減が可能になります。さらに太陽光や地熱と組み合わせることで、冷房を都市インフラの中核に据えつつ脱炭素化を加速できます。
今後、インドがこの変革を主導できれば、世界のHVAC産業に大きな影響を与えるでしょう。日本企業にとっても、省エネ技術や再エネ統合のノウハウを活かした協業の機会が広がる可能性があります。
重要キーワード3つの解説
- 地域冷房(District Cooling)
大規模な冷却設備から複数の建物に冷気を供給する仕組み。効率的でエネルギー消費を大幅に削減できるため、都市の冷房需要増に対応する有力な方法。 - Cooling as a Service(CaaS)
冷房を「サービス」として提供する新しいビジネスモデル。設備投資が不要で、プロバイダーが効率化の責任を負うため、利用者と環境の双方にメリットがある。 - 低GWP冷媒
温室効果の少ない冷媒。従来の冷媒がCO2の2,000倍以上の影響を持つのに対し、HFOやCO2冷媒は環境負荷を大幅に下げることができる。