EU、PFAS規制に向け本格検討—環境と健康への影響を巡る動き

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化学物質PFASの使用制限案が欧州で進行中。環境保護と産業活動のバランスが課題に。

2023年2月、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、デンマークの5カ国が共同で、PFAS(パーフルオロアルキル化合物)の使用を制限するREACH規制案を提出しました。PFASは1万2,000種類以上ある化学物質の総称で、環境汚染や人体への悪影響が懸念されています。特にPFASを含む消防用泡消火剤は、過去に深刻な汚染を引き起こした事例が報告されています。

EUでは、多くのフッ素系ガス(Fガス)や、それが大気中で分解されて生じるトリフルオロ酢酸(TFA)もPFASに該当します。TFAの生成量は冷媒の化学構造によって異なり、100%生成される場合もあれば、ほとんど生じない場合もあります。例外として、R32はPFASでありながらTFAの生成が比較的少ないとされています。

近年、雨水中のTFA濃度が飲料水の基準値に近づくという報告があり、懸念が高まっています。ただし、TFAはFガスだけでなく、農薬焼却施設での燃焼残留物からも発生しており、正確な発生源の割合は明らかになっていません。国連環境計画(UNEP)の報告では、冷媒由来のTFAは現時点で「大きな懸念ではない」とされていますが、今後の詳細な調査は不可欠とされています。

EUでは既にFガス規制が進行中で、2032年には小型一体型エアコン・ヒートポンプ、2035年には小型分割型エアコン・ヒートポンプでFガスの全面禁止が予定されています。規制は冷媒の回収・再利用を義務化し、漏えいを減らすことで温室効果やTFA発生を抑える狙いがあります。

PFAS制限案の施行時期は当初より遅れており、2027〜2028年の発効が見込まれています。その後、18か月の移行期間が予定されています。ただし、Fガス規制とPFAS規制が同時に進むことで、産業界では対応の難しさが指摘されており、二重規制の回避が課題です。

今後の展開とインパクト

この規制が実施されれば、冷暖房や冷蔵分野を中心に代替冷媒の開発競争が加速するでしょう。一方で、規制によるコスト増や製品の入れ替えが進むことで、短期的には市場の混乱が予想されます。長期的には、環境負荷の少ない冷媒技術の普及が進み、気候変動対策や水質保全に寄与する可能性があります。

2021年7月
ノルウェー(NO)、オランダ(NL)、ドイツ(DE)、デンマーク(DK)、スウェーデン(SE)の5か国が、PFAS制限に向けた証拠収集を欧州化学品庁(ECHA)に提出し、REACH規則に基づくプロセスを開始。

2023年2月
ECHAが5か国による正式なPFAS制限提案を発表。

2023年3月
6か月間の協議期間が始まり、社会経済的・リスクの観点から科学的に提案を評価。

2026〜2027年
欧州委員会が制限案の草案を作成し、加盟国および欧州議会と協議して最終決定を行う。

2027〜2028年
規制が発効する可能性。

2028〜2030年
最大18か月間の移行期間が想定されている。


重要キーワード3つの解説

  • PFAS(パーフルオロアルキル化合物)
    耐熱性や耐水性に優れた人工化学物質群。分解されにくく、環境中に長く残留するため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。健康への影響が懸念されている。
  • TFA(トリフルオロ酢酸)
    PFASを含む物質が大気中で分解されて生成される酸性化合物。水に溶けやすく、雨水や河川に混ざり込む可能性がある。
  • Fガス規制
    温室効果ガスであるフッ素系ガスの使用を減らすEUの制度。段階的削減や回収義務により、環境への影響を抑えることを目的としている。
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