環境規制に備え、ドンフェンや長安汽車などが「脱フロン」へ本格始動——EVの快適性と効率を両立する新技術が続々登場
中国では、2029年7月からGWP(地球温暖化係数)150超の冷媒を新車に使うことが禁止される予定です。これに先駆けて、現地の自動車メーカーがCO₂(R744)やプロパン(R290)といった自然冷媒を使った空調システムの開発を急ピッチで進めています。
その代表格が、国有大手のドンフェン(東風汽車)です。同社は国連工業開発機関(UNIDO)と連携し、CO₂を使ったEV向けエアコンのパイロットプロジェクトを開始。これは従来のR134a冷媒を置き換える、国家規模の取り組みの一環です。
もう一つの大手メーカー、長安汽車(CCAG)も、R290冷媒を使った二次熱ポンプシステムを開発中。車内とバッテリーからの排熱を再利用するダブルチラー設計で、エネルギー効率の向上を図っています。
さらに、部品メーカーもこの波に乗っています。上海ハイリー(Highly)はイタリアのマレリと合弁会社を設立し、マイナス40℃でも起動できるR290電動コンプレッサーを開発。ウェリング(Welling)は、マイナス20℃の環境でEVの航続距離を19%伸ばすCO₂コンプレッサーを発表しました。両社とも、将来的には欧州市場への展開も視野に入れています。
また、ドイツのマーレ(MAHLE)も、R290対応の空調モジュールをIAAモビリティ2025で発表予定。基本設計を変えずに冷媒の切り替えが可能ということで、既存車種にもスムーズに適用できるのが特徴です。
これらの取り組みは、4月に開催されたオート上海2025で披露され、EV向け熱マネジメントのトレンドとして注目を集めました。
重要キーワード3つの解説
- CO₂(R744)冷媒
天然の冷媒で、地球温暖化係数(GWP)がわずか1という圧倒的な環境性能を持っています。高圧が必要という課題もありますが、極寒環境での暖房効率の高さや、持続可能性の高さが魅力です。今後、EV向けの標準になる可能性があります。 - R290(プロパン)冷媒
冷蔵庫やヒートポンプでも使われる自然冷媒で、GWPはたったの3。優れた冷暖房性能を持ち、安価でエネルギー効率が高いのが特徴です。可燃性があるため、安全設計が鍵になりますが、多くの企業がその技術的課題に取り組んでいます。 - 熱マネジメントシステム(Thermal Management Systems)
単なるエアコンではなく、バッテリーの冷却・加熱、室内の温度管理、排熱の再利用まで行う複合システムです。これによりEVの航続距離、性能、快適性を大きく向上させることが可能になります。自然冷媒との組み合わせで、より高効率なEVが実現できます。
今後の展開とインパクトの可能性
中国の環境規制を背景に、「ポストR134a時代」のモビリティが現実味を帯びてきました。冷媒の転換は地味なようで、EVのエネルギー効率やコスト、寒冷地性能を左右する極めて重要な要素です。
今後、自然冷媒の使用は中国だけでなく、欧州や北米でも義務化の動きが進むと予想されており、今回のような早期の技術開発は、メーカーにとってグローバル競争力の源にもなります。とくにR290は、コスト面でも優れており、今後中小規模のEVメーカーにも採用が広がる可能性があります。
EVの性能を裏側で支える「空調の未来」。中国メーカーたちは、すでに次の一手を着々と打ち始めているのです。