EUのクリーンインダストリアルディールに向け、導入負担を下げる新たな仕組みを提示
欧州では脱炭素化の柱としてヒートポンプの普及が急速に進められていますが、初期費用の高さが普及拡大の大きな壁となっています。特に低所得世帯にとっては、暖房システムの切り替えに数千ユーロ規模の投資を必要とすることが障害となり、結果的に環境に優しい技術への移行が進みにくい状況があります。
この課題に対し、欧州ヒートポンプ協会(EHPA)は2025年8月、「ソーシャルリース(social leasing)」という仕組みを活用する立場を示しました。これは、低所得家庭がクリーン技術を購入する代わりに、手頃な月額料金で利用できるようにする制度です。自動車リースやサブスクリプションサービスのように、所有の概念を変えて普及を後押しする考え方です。
欧州委員会は2025年中に、クリーンインダストリアルディールの一環として、各国政府に対してヒートポンプなどのクリーン技術に関するソーシャルリース制度のガイダンスを発表する予定です。EHPAはこれに先立ち、政策担当者向けに立場文書を発表し、制度設計上の課題や解決策を提示しました。具体的には、資金調達の仕組み、リース提供者のリスク分担、利用者保護、補助金との併用などが議論されています。
EHPAは、ソーシャルリースが「負担能力の格差を埋める(bridging the affordability gap)」手段になると強調しており、低所得世帯でも脱炭素化の恩恵を享受できるようにすることが狙いです。これにより、普及速度の加速と社会的包摂の両立が期待されます。
重要キーワード3つの解説
- ソーシャルリース(Social leasing):低所得世帯がクリーン技術を月額料金で利用できる仕組み。所有ではなく利用に重点を置く。
- Clean Industrial Deal:欧州委員会が進める産業部門の脱炭素化政策。エネルギー効率化や技術移行を社会全体に広げる枠組み。
- EHPA(European Heat Pump Association):欧州ヒートポンプ協会。業界団体として普及促進や政策提言を行う。