- EUでPFAS全面禁止を目指す規制案が審査中
- 1万種超の物質を対象に「万能」定義で網羅
- 法的明確性・科学的根拠の欠如が指摘される
- 他規制との重複や施行の実現性にも懸念
- 2025年末の意見提出とREACH改正が今後の焦点
REACH規則に基づくPFAS規制案、科学的正当性と法的実現性を巡り激しい議論
デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、ドイツの5カ国が共同提出したPFAS(パーフルオロ・ポリフルオロアルキル化合物)の包括的規制案は、EU史上最大級の化学物質制限とされる一方で、その法的妥当性と科学的根拠が激しい論争を呼んでいます。
提案は2023年に欧州化学物質庁(ECHA)に提出され、1万種を超えるPFAS物質を対象としていますが、あらゆるフッ素化メチル基またはメチレン基を含む物質を網羅する「万能」な定義は、執行可能性や法的明確性を欠くとの批判を受けています。欧州の大手法律事務所フィールドフィッシャーのマリア・ベアトリス・グラッシ弁護士も、「CAS番号など標準的な識別子を用いておらず、現行のREACH規則の基本原則に反している」と指摘します。
加えて、規制の根拠とされる「残留性」のみをもとにしたハザード評価には、実証性や物質固有のデータが欠如しており、毒性や移動性といった規制に不可欠な要素が軽視されているとされています。さらに、セクターごとの使用実態や曝露リスクへの分析も表面的で、適用除外の判断基準にも透明性が欠けています。
現行のFガス規制、POPs規制、ストックホルム条約などとの重複も指摘されており、新たなPFAS規制がそれらとの整合性を欠くことで、規制の有効性や持続性にも疑問符がついています。2025年末に予定されているECHAの意見提出とREACHの見直しによって、法的枠組みの変更が加われば、提案全体の見通しはさらに不透明となるでしょう。
「PFAS規制はEUグリーンディールの『ゼロ汚染』ビジョンを体現する政策ですが、予防原則と法的整合性、科学的妥当性、経済的現実性のバランスをいかに取るかが最大の課題です」とグラッシ氏は締めくくります。
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