国際・各国の安全規格が更新され、可燃性冷媒の使用範囲が広がる中、実際のリスクと認識の差が課題に。
冷媒は、安全規格と適切な取り扱い方法を守れば安全に使用できるものです。規格は、共通の手順や技術基準を整え、法的な適合性を確保することで、業界に安心感をもたらします。これは新しい製品の開発や普及に欠かせない要素です。
現在、ISO 5149、EN 378、ASHRAE 15などの国際的な安全規格が、可燃性冷媒の利用をより広く認める方向に進んでいます。例えば、
- IEC 60335-2-40 はA2L冷媒を全面サポートし、2025年にはA3冷媒の全面サポートと充填量上限の引き上げを予定しています。
- IEC 60335-2-89 は小型商業用冷凍機向けで、A3冷媒を0.5kgまで、A2L冷媒を1.2kgまで許容する仕様に改訂。
- UL 60335-2-40(米国/カナダ)は、当初A2/A3冷媒を認めていませんでしたが、A2Lは既にサポートされ、A3も今後許可される可能性があります。
- 中国国家規格GB9237 はISO 5149を踏襲し、可燃性冷媒を全面的にサポートしています。
こうした改訂により、「可燃性冷媒禁止」から「条件付き許容」への流れが加速しています。
冷媒の安全性評価では、「実際のリスク」と「感じるリスク」がしばしば異なります。新しい冷媒は、実際よりも危険だと認識されがちですが、産業界の経験とユーザーの理解が進むにつれて、このギャップは縮まっていきます。これは「飛行機より車の方が安全だと感じるが、実際は逆」という認知の歪みに似ています。
各メーカーやシステム構築者は、製品の使用・保守において必ずリスクアセスメントを行う必要があります。今後、国際規格と国内規格の整合性が進めば、可燃性冷媒の活用は一層広がり、省エネや低温暖化効果ガスの普及に貢献するでしょう。
今後の展開とインパクト
規格改訂によって、空調や冷凍分野での新しい低環境負荷冷媒の採用が加速します。一方で、施工・整備に関わる技術者教育や安全管理体制の強化が求められます。これが整えば、業界全体がより持続可能な方向へシフトし、温室効果ガス削減にも直結します。
重要キーワード3つの解説
- 可燃性冷媒(Flammable Refrigerants)
燃焼性を持つ冷媒。環境負荷の低減に役立つが、使用時には安全規格の遵守が必須。A2L(低燃焼性)とA3(高燃焼性)などに分類される。 - IEC 60335-2-40
空調機・ヒートポンプ向けの国際安全規格。A2L冷媒を全面サポートし、2025年からA3冷媒も含めた充填量上限の拡大を予定。 - リスク認識の差(Perceived vs Actual Risk)
実際の危険度と、人々が感じる危険度の違い。新しい技術は過大評価されがちだが、経験と知識で差は縮まる。
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