フィンランドに本社を置く Vaisala は、世界有数の計測技術メーカーとして知られています。気象観測機器や産業向けセンサーの分野で高いシェアを持ち、再生可能エネルギーやデータセンターの効率化など幅広い分野で利用されています。
一方、英国の Quanterra Systems Ltd は、2021年にエクセター大学からスピンアウトした気候テック企業で、大気中の炭素の流れ(フラックス)を直接測定する独自サービスを提供。農業、バイオ燃料、研究機関、カーボンクレジット市場に向けて、現場に設置するタワー型センサーで継続的なCO₂測定を行い、信頼性の高いデータをサブスクリプション形式で提供しています。
こうした背景のもと、Vaisalaは2025年9月、Quanterraを買収し、新たに「New Climate Business」部門を立ち上げました。狙いは、温室効果ガス測定分野の事業拡大と、透明性ある気候対策の推進です。
気候変動対策をめぐっては、企業の「グリーンウォッシング(見せかけの環境対策)」に批判が高まっています。2024年にNature Communications誌が発表した研究では、自発的市場のカーボンクレジットの8割以上が過大評価されているとされ、社会の信頼が大きく揺らいでいます。こうした中でVaisalaは「科学的な証拠と透明性」を重視し、Quanterraの技術を組み合わせて気候アクションの信頼回復に取り組む方針です。
Quanterraの顧客は、集められた長期的な実測データを活用し、自社の低炭素製品やプログラムの効果を検証できるだけでなく、高品質なカーボンクレジットを生成して新たな収益源を得ることが可能になります。
VaisalaはすでにCARBOCAP®センサーなどでCO₂測定を30年近くリードしてきました。今後はその経験とグローバルなサービス網を活かし、Quanterraのモデルをオーストラリア、南米、アジアへと拡大させる計画です。
VaisalaのAnne Jalkala副社長は「排出削減だけでは不十分。検証可能な炭素吸収源が必要です」と強調。QuanterraのRebecca Mitchell CEOも「Vaisalaと組むことで、単独では不可能だったスピードで事業を拡大できる」と語っています。
今回の買収は、企業の気候戦略において「測定による裏付け」が競争力を左右する新時代の到来を象徴するものといえます。
重要キーワード3つの解説
- CO₂フラックス測定
大気中での二酸化炭素の出入り(吸収・排出)を直接測定する技術。カーボンクレジットや気候対策の信頼性向上に不可欠。 - グリーンウォッシング
実態以上に環境配慮しているように見せかける行為。消費者や投資家の信頼を損ねる要因となっている。 - CARBOCAP®センサー
Vaisalaが開発した赤外線式CO₂測定センサー。世界中の研究機関やプロジェクトで長年利用されてきた。
