ジュネーブの地下に未来がある──Trane, Infomaniakのデータセンターが「熱を捨てない」社会をつくる

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1.7MWの廃熱を地域暖房へ。Traneのヒートポンプで実現した「見えない発電所」の新しいかたち

2025年1月にスイス・ジュネーブで正式稼働したInfomaniakの新データセンターは、これまでの“エネルギーを大量に消費する施設”というイメージを根本から覆す、革新的な取り組みで世界の注目を集めています。

このデータセンターはなんと、住宅地の地下に造られ、地上からはその存在が一切見えません。しかも、使う電力はすべて地元の再生可能エネルギー。その上で、稼働時に発生する熱を100%再利用し、近隣の地域暖房網に供給するという循環型エネルギーモデルを実現しました。

この仕組みの要となるのが、Trane社製の高性能ヒートポンプ(XStream™ RTWF)です。データセンターのサーバーや換気設備などから出る低温の廃熱(約45℃)を、ヒートポンプで最大85℃まで昇温し、地域の暖房ネットワークに流します。これにより、冬は約6,000戸の住宅を暖め、夏には2万人分の5分間のシャワーを毎日供給できるほどの熱エネルギー(年間14.9GWh)を生み出します。

さらにこのシステムによって、毎年最大5,500トンのCO2排出を削減。ペレットボイラーの代替となることで200台以上の大型車の輸送も不要になり、大気汚染の軽減にもつながっています。

冷却面でも画期的です。冷却装置(チラー)を使わず、ヒートポンプが生み出す冷気でサーバーを冷却。さらに、ヒートポンプが停止した場合でも外気を使った「フリークーリング」で対応できる仕組みです。

この施設では、従来のPUE(電力使用効率)に加え、ERE(エネルギー再利用効率)ERF(エネルギー再利用率)といった新たな指標も導入。「使った電気をどれだけ再利用できているか」まで可視化しようという試みは、気候変動に真剣に向き合う姿勢の現れです。

現在は稼働率25%ながら、2028年には最大の1.7MW出力に達する見込みで、少なくとも今後20年間にわたり地域へ熱を供給し続ける予定です。この仕組みは、Infomaniakがオープンソースとして公開しており、他地域・他企業でも再現可能なモデルとして注目されています。

今後の展開とインパクト
この取り組みが持つ意味は、単なる省エネ技術にとどまりません。クラウドサービスの普及で急増するデータセンターの排熱問題に対し、「捨てずに活かす」新しい答えを提示しているのです。特に住宅地や都市部における再生可能熱源として、既存の建物・インフラと連携しながらの導入が進めば、都市そのものが発電所になる未来も見えてきます。

Traneの製品と組み合わせたこの「見えない発電所」の仕組みは、欧州をはじめ世界各国のICTインフラに大きな影響を与える可能性があります。クラウドと地域エネルギーが一体化するこのモデルは、データ消費が環境負荷ではなく“熱資源”になる時代の幕開けです。

重要キーワード3つの解説

  1. 循環型エネルギー(Circular Energy)
     従来は無駄にされていた廃熱を活用し、冷暖房や給湯として再利用する仕組み。Infomaniakでは、サーバーの発熱を地域暖房に供給することで、「使うエネルギーを地域に返す」新しい形を確立しています。
  2. ERE・ERF(エネルギー再利用指標)
     PUE(電力使用効率)ではわからない「エネルギーの再利用度合い」を示す指標。EREは「使った電力のうち再利用できた割合」、ERFは「再利用エネルギーが全体の何%か」を示し、真の意味での効率性を評価できます。
  3. 高温ヒートポンプ(Trane XStream™ RTWF)
     従来のヒートポンプでは難しかった高温領域(最大85℃)への昇温を実現。ジュネーブの地域暖房ネットワークと適合するように設計され、低温のサーバー熱を実用的な暖房エネルギーに変換する鍵となっています。

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