EIA(Environmental Investigation Agency)の資料によると、アメリカでは環境負荷の少ない冷媒の導入を進めるため、冷暖房機器の安全基準を国際規格と調和させる動きが本格化しています。中心となるのは、自然冷媒である「R-290(プロパン)」です。R-290は熱効率が高く、コストも抑えられるうえに、地球温暖化係数(GWP)が10未満という極めて低い数値を持っています。
この冷媒はすでにヨーロッパで広く採用されており、特にドイツや北欧諸国では、住宅用ヒートポンプや商業施設の空調システムにR-290を使った機器が増えています。欧州連合(EU)は環境規制を強化し、フロン系冷媒を段階的に削減する政策を進めており、R-290はその代替として定着しつつあります。この成功例が、アメリカでの導入を後押しする重要なモデルとなっています。
しかし、アメリカでは現在、R-32やR-454Aなどの低GWP型フッ素系冷媒が主流として使われています。これらの冷媒は、従来のR-410Aに比べて温暖化係数を半分以下に抑えられるものの、依然として温室効果ガスの排出源となるという課題があります。さらに、R-32は可燃性があり、R-454Aはブレンド冷媒のためリサイクルが難しいという側面もあります。そのため、長期的な脱フロン化や持続可能性を考えると、より環境負荷の少ないR-290への転換が不可欠とされています。
EIAの報告によると、アメリカ国内の安全基準であるUL 60335-2-40とASHRAE-15を、国際規格IEC 60335-2-40と完全に調和させることが現実的な解決策です。これが実現すれば、米国内で販売される空調やヒートポンプのおよそ78〜88%がR-290を効率的に使用可能になると分析されています。
現在、UL(Underwriters Laboratories)とASHRAE(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)が共同で新たな安全研究を進めています。2027年までに部分的な改定案をまとめ、2030年モデルの建築基準コードに反映することを目指しています。さらに、州や自治体が迅速に新基準を採用すれば、2030年にもR-290搭載機器が市場に登場する可能性があります。
重要キーワードの解説
- R-290(プロパン):自然由来の冷媒。高効率・低コストで、GWPは10未満。欧州ではすでに広く普及している。
- R-32 / R-454A:現在アメリカで主に使用されている低GWP型冷媒。R-410Aより環境負荷は低いが、依然としてフッ素系であり、長期的にはR-290の方が持続可能。
- UL / ASHRAE / IEC:冷暖房機器などの安全性を定める規格機関。アメリカ国内規格と国際規格の「調和(harmonization)」が、普及拡大の鍵を握る。