2025年6月にアトランタで開催されたATMO Americaサミットで、米ロードアイランド大学の研究チームが州内の水道水から高濃度のTFA(トリフルオロ酢酸)を検出したことを発表しました。TFAは、冷媒ガス(f-gas)などの分解によって発生する超短鎖型PFAS(有機フッ素化合物)の一種です。
この研究では、2024年4月から2025年2月までに集められた320の水道水サンプルを分析。その結果、66%のサンプルからTFAが検出され、中央値は580ng/L、最大値は2,400ng/L(2.4mcg/L)に達しました。これは、他の超短鎖PFASであるPFPrA(中央値11ng/L)やTFMS(2.8ng/L)を大きく上回る値であり、TFAがPFAS中で最も支配的な存在であることが明らかになりました。
この研究を主導したライナー・ローマン教授は、「TFAの毒性はまだ完全には解明されていないが、もしこれがPFOAやPFOSであれば、健康への重大な懸念となるレベルだ」と述べています。さらに、TFAが検出された濃度は、アメリカ以外の国、たとえばデンマークやドイツ、サンフランシスコ湾地域の地下水や表層水とほぼ同じ範囲にあることも分かっています。
TFAの主な発生源として、冷媒ガスの大気中分解、フッ素系農薬や医薬品の分解、副産物の直接排出などが考えられますが、正確な発生地点はまだ特定されていません。ローマン教授は今後、TFAの具体的な発生源の特定と健康影響の調査が不可欠であると強調しました。
また、TFAが水だけでなく、植物や生物の体内からも検出されていることに触れ、「すべての環境媒体でTFAの濃度が上昇しているとすれば、それは非常に憂慮すべき傾向だ」と指摘しています。
重要キーワード3つの解説
- TFA(トリフルオロ酢酸)
冷媒ガスなどの化学物質が大気中で分解されて生成される超短鎖型PFAS。非常に安定で、分解されにくく、水や空気、さらには生物体内にも広がりつつあります。 - 超短鎖PFAS(Ultrashort-chain PFAS)
炭素数が2〜3の非常に小さなPFASで、従来の長鎖型PFASよりも毒性評価が進んでいないが、環境中での濃度が急増しており、潜在的なリスクが懸念されています。 - ATMO Americaサミット
冷媒業界や環境科学の専門家が集まり、最新の研究や政策について議論する国際会議。2025年はアメリカ・ジョージア州アトランタで開催され、TFAに関する複数の研究が報告されました。
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