関税引き上げへの対抗と中間層消費を刺激する戦略
インド経済は現在、米国の関税引き上げ(25%から50%)によって先行きが不透明になっている。そのような状況で、モディ首相は消費税(GST)の大胆な引き下げを打ち出し、税率体系を「5%と18%の二段階」へと簡素化する方針を示した。この政策によって特に注目されているのが、エアコン市場への影響である。
現在28%の税率が課されているエアコンは、18%へ引き下げられる見通しであり、価格は一気に1割以上下がるとみられる。これにより都市部や新興中間層の購買意欲が高まり、これまで「高価で手が届かなかった層」が市場に参入する可能性がある。さらに、このタイミングはインド最大の商戦期である「ディワリ」と重なり、季節的な需要拡大と相乗効果をもたらすだろう。
Reutersによると、インド大手メーカーBlue Starのティアガラジャン社長は、減税を受けて販売見通しを「従来の10〜15%増から最大20%増へ」上方修正すると表明した。さらにVoltas(タタ系)やDaikin(日本)など主要プレーヤーにも波及効果が期待され、約40億ドル規模の市場全体が活性化すると考えられる。
もっとも、注意すべき点もある。減税案は最終的にGST評議会の承認が必要であり、過去には合意形成が難航した例もある。また、公共財政への負担や、米国関税の影響による部品コスト上昇が企業収益を圧迫する可能性も残されている。さらに、減税が10月から施行される見込みであるため、それまでは消費者が購入を先送りし、一時的に販売が鈍化するリスクもある。
しかしながら、政策が実現すればエアコンは価格面で最大の恩恵を受ける製品群の一つとなり、中間層を中心とした消費拡大を通じて、インドの耐久消費財市場全体の成長を後押しする可能性が高い。
重要キーワード3つの解説
- GST(Goods and Services Tax)
インドで導入されている間接税で、物品やサービスの取引に課される。従来は4段階に分かれていたが、モディ首相は2段階へと簡素化し、企業活動と消費を刺激しようとしている。 - 中間層消費
インド経済成長の中心を担う層で、特に家電や自動車など耐久消費財の購買意欲が高い。可処分所得の増加がそのまま市場拡大につながりやすい点が特徴である。 - エアコン市場
インドでは猛暑の深刻化と生活水準の向上によって急速に拡大している分野。減税による価格下落は新規需要層を取り込み、Blue StarやVoltas、Daikinなど主要企業にとって販売増加の契機となる。