環境負荷の高いフロンから脱却。未来のために始めた長期プロジェクトの全貌とは。
日本全国に約7,800店舗を展開するイオンが、2040年までにすべての冷蔵・冷凍設備を自然冷媒に切り替えると発表しました。これは、二酸化炭素(CO2)や炭化水素を使った冷媒システムへの完全移行を意味し、環境への負荷が大きいフロン類の使用を段階的にやめていくという大胆な取り組みです。
イオンは2015年から新規店舗で自然冷媒の冷蔵設備を導入してきましたが、今回は既存店舗を含む全店を対象にしています。まずは老朽化した設備から交換を進め、2025年度末までに全体の4%、2030年までには30%の転換を目指すとのこと。改装工事のタイミングを活用して、計画的に進めていく方針です。
背景には、フロンの地球温暖化係数(GWP)の高さと、その漏えいによる大気への影響が大きな社会問題になっている現状があります。イオンはこれを受け、2040年までの温室効果ガス実質ゼロ(ネットゼロ)達成に向けて、冷媒の転換を重要な柱のひとつに据えています。
現時点ではすでに約5,300台の自然冷媒機器が稼働しており、導入は着実に進んでいます。しかし日本全体では、CO2を使った冷蔵システムの導入率はまだ低く、スーパーではわずか3.5%、コンビニでも20%程度にとどまっており、イオンの試みは先進的と言えるでしょう。
一方で、課題もあります。自然冷媒機器は導入コストが高く、機器の流通もまだ限られています。そこでイオンは、国の補助金制度を活用しながら、メーカーや行政と連携して規制緩和や新しい設計基準の整備を進めていく方針です。2027年度まで国の支援制度が継続される見通しで、これを追い風に取り組みが加速することが期待されています。
重要キーワード3つの解説
- 自然冷媒(しぜんれいばい)
地球にやさしい冷媒のことで、CO2や炭化水素など、温室効果が少ない物質を使います。従来のフロン冷媒と比べて環境への影響が小さく、気候変動対策として注目されています。 - GWP(地球温暖化係数)
ある気体が温暖化に与える影響を、CO2を基準にして数値化したものです。フロンはこのGWPが非常に高いため、漏れると深刻な環境問題になります。 - ネットゼロ(実質ゼロ)
二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、植林や技術などで吸収・削減できる量を差し引き、合計をゼロにするという考え方です。イオンは2040年までにこの目標を達成するとしています。
今後の展開とインパクト
イオンの取り組みは、単なる企業の環境対応にとどまらず、日本の小売業界全体に大きな影響を与える可能性があります。他の大手チェーンがこれに続けば、冷媒業界全体が自然冷媒中心へと大きく舵を切ることになるでしょう。
また、国との連携による規制緩和や新しい建設基準の整備は、業界全体のコスト削減にもつながり、中小企業の参入も後押しする可能性があります。
さらに、消費者にとっても「環境にやさしい店」が選ばれる時代が来るかもしれません。イオンが目指すのは、未来の子どもたちに誇れる買い物の場を提供することなのです。
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