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米国産LNGをもっと買うべき?トランプ氏の要求と揺れるEUのエネルギー戦略

  • トランプ氏はEUに対し、米国産LNGの輸入増を要求
  • EUはロシア産ガス依存を断ち、消費削減を目指す政策を継続中
  • 専門家は「既に2030年の需要以上の契約を締結済み」と指摘
  • エネルギー価格高騰と再エネ拡大でガス消費は減少傾向に
  • 米国との不安定な貿易関係が、新たな依存先としてのリスクに

エネルギー自立と脱炭素の狭間で、欧州は岐路に

要求は現実的か?EUのLNGジレンマ

トランプ前大統領が欧州に求める「米国産ガスのさらなる購入」は、経済的な駆け引きだけでなく、エネルギー政策と気候目標にも大きな影響を及ぼしかねません。

EUは2027年までにロシア産ガスからの完全な脱却を掲げる「REPowerEU計画」を推進しています。しかし、この脱ロシア依存の過程で、トランプ氏の要求通り米国産ガスへの依存が深まれば、新たなリスクを招く可能性があります。


ガス需要は本当に増えるのか?

IEEFAのエネルギーアナリスト、アナ・マリア・ジャレル=マカレウィッツ氏は「EUが現行のエネルギー政策を貫けば、新たなガス輸入は不要」と語ります。実際、EUのガス消費量は2021年比で80bcm(80億立方メートル)も減少しており、代替エネルギーの普及や建物の断熱化などがその要因です。

一方、業界団体ユーロガスのアンドレアス・グート氏は、「気候目標は絵に描いた餅」であり、冬の温暖化や産業の縮小による“需要破壊”が消費減の主因と主張。持続可能な削減ではなく、一時的な現象と見ています。


ACERの警鐘:楽観は禁物

欧州エネルギー規制機関ACERは5月22日の報告書で、「REPowerEUの目標達成に楽観すべきでない」と指摘。特に太陽光以外の再エネ・断熱化の進捗は不十分で、既に2030年以降のガス輸入契約が需要を超える水準にあるとも述べています。

ただし、現時点では「REPowerEUに近い軌道で推移する可能性が高い」との見方も示されており、鍵を握るのは加盟国の実行力と政治的意志です。


エネルギー供給だけでなく「貿易戦略」でもある

トランプ氏の要求は、エネルギー問題にとどまらず、「貿易不均衡の是正」を目的とした政治的圧力でもあります。しかし、現在の米国はEUに50%関税を課すといった強硬姿勢を見せ、同盟国ではなく“競争相手”として扱う場面も増えています。

IEEFAのジャレル=マカレウィッツ氏は、「米国への依存が深まることは、新たな一極集中リスクを生む」と警鐘を鳴らしています。


結論:決断の時は近い

EUは今後数週間以内に、2040年までの新たな温室効果ガス削減目標を発表する予定です。これは気候目標に対する真の覚悟が試される“リトマス試験”とも言えるでしょう。

米国産LNGを増やすか否か――その判断は、エネルギーの安全保障だけでなく、EUの気候戦略、産業構造、そして国際的な立ち位置までも左右する分岐点となりそうです。

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