PFAS法、冷媒はPFASか、それとも例外か。州ごとの判断がHVAC業界の未来を左右する。
冷媒規制の背景を理解するためには、まずPFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)とは何かを押さえる必要があります。PFASは「永遠の化学物質」と呼ばれるほど自然界で分解されにくく、健康や環境へのリスクが問題視されている物質群です。代表的なものは、かつてフライパンのコーティングや消火用泡に使われたPFOAやPFOSで、発がん性や免疫系への影響が指摘されてきました。
ここで重要なのは、PFASをどう定義するかという点です。米国のEPA(環境保護庁)は、PFAS規制を主に飲料水や一部の長鎖化合物に絞り、冷媒についてはPFASとみなしていません。EPAの視点は「地球温暖化係数(GWP)を下げること」にあり、HFOや低GWPのHFCは「より安全な冷媒」として承認しています。
しかし、多くの州はより広い定義を採用しています。ミネソタ州やメイン州などは「1つでも完全にフッ素化された炭素を含む化学物質はPFAS」と定めており、この結果、HFOやHFCなどの冷媒もPFASに含まれてしまうのです。EPAが「推奨する代替冷媒」が、州法では「禁止される化学物質」となるという矛盾がここで生まれます。
では、HVACで使う冷媒がPFASに定義された場合はどうなるのでしょうか。ここでカギを握るのが例外規定CUU(Currently Unavoidable Use=現在避けられない用途)です。ミネソタ州の「Amara’s Law」では、2032年以降、PFASを含むあらゆる製品を原則禁止する方針ですが、社会に不可欠で代替手段がない用途は例外として認める仕組みを設けています。つまり冷媒が「食品保存や生活に欠かせない用途」と判断されれば、使用継続が認められる可能性があるのです。
一方、メイン州は2040年から冷媒やHVAC機器を全面禁止する方針を明示しており、こちらは例外規定の余地が少ないと見られます。これに対してカリフォルニア州は、当初冷媒も規制対象に含める予定でしたが、業界からの強い反発を受けて削除しました。結果として、カリフォルニアでは独自にHFCのGWP規制を進めつつ、PFAS規制から冷媒は外れることになりました。
つまり、EPAは冷媒をPFAS扱いせず規制対象外、州は冷媒をPFASに含めて将来禁止しようとする、ただし例外規定の有無や範囲は州ごとに異なるという複雑な構図が浮かび上がります。
現時点での状況を表にまとめました。ただし、カリフォルニア州の例のように、今後大きな方針転換が起こる可能性も十分にあります。そのため、引き続き動向を注意深く見守ることが重要です。

重要キーワード解説
- PFAS(永遠の化学物質)
分解されにくく、環境や健康に長期的影響を与える化学物質群。定義の仕方で冷媒が含まれるかどうかが変わる。 - AIM法
EPAが運用する連邦法で、HFCをGWPに基づいて段階的に削減する枠組み。冷媒の気候影響を減らすことが目的。 - Currently Unavoidable Use(CUU)
州法に設けられた例外規定。社会的に不可欠で代替がない場合は、PFASであっても使用が認められる。冷媒がCUUに入るかどうかが業界の焦点。
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