国際条約によるHCFC・HFC削減に加え、EUはMAC指令やFガス規制でさらに厳格なルールを導入。低GWP冷媒への移行が世界規模で加速する。
1987年に採択されたモントリオール議定書は、オゾン層破壊係数(ODP)と地球温暖化係数(GWP)の両面から冷媒の使用を制限する国際条約です。HCFCは既に段階的廃止スケジュールが進行中で、HFCについても世界各国でフェーズダウンが始まっています。非A5国(先進国)はすでに基準値(ベースライン)が固定されていますが、A5国(途上国)はHCFCの割当量とHFC消費量を組み合わせた基準を使うため、HFCの基準値はこれから確定します。このため「早期に低GWP冷媒へ移行すると基準値が下がって不利になる」という見方もありましたが、実際には多くのA5国が積極的に低GWP冷媒を採用し始めています。
EUは国際枠組みを上回る独自規制も導入しています。その一つがMAC指令です。これは自動車のエアコンにおいてGWPが150を超える冷媒の使用を禁止するもので、2011年から新型車、2017年から全新車に適用されました。従来主流だったR134a(GWP=1430)は対象外となり、代替としてR1234yfが世界的に普及。現在ではEU、米国、中国で数百万台規模がR1234yfを採用しています。
さらに、EUのFガス規制は世界でも先進的で、モントリオール議定書のキガリ改正を先取りした内容となっています。2006年の初版では漏えい抑制や保守管理が中心でしたが、2015年の改正で高GWP HFCの本格的なフェーズダウンが開始されました。そして2024年2月20日に公布された新規則では、Fガスの長期的な完全廃止が盛り込まれました。特に2025年からのクオータ大幅削減、2030年以降は整備用のFガス供給も大きく制限される点が注目されます。
割当配分の仕組みは基本的に変わらないものの、これまで除外されていた定量吸入器(MDI)が2025年から対象に追加されます。これに伴い、冷凍・空調・ヒートポンプ(RACHP)分野に割り当てられるFガスの量は大きく減少する見込みです。
今後の展開とインパクト
- 2025年からEUのFガス供給量が急減し、低GWP冷媒への置き換え圧力が一気に高まる。
- A5国も早期に低GWP冷媒へ移行しており、世界規模で市場構造が変化。
- 自動車分野ではR1234yfが事実上の国際標準となり、他分野でもHFOや自然冷媒の採用が加速。
- 2030年以降、EUではFガスを使った機器の整備が難しくなり、既存機器の寿命戦略や冷媒回収体制が重要課題に。
重要キーワード3つの解説
- モントリオール議定書(Montreal Protocol)
ODP物質と高GWP冷媒を削減する国際条約。HCFCは段階的廃止、HFCはフェーズダウンで世界的に管理。 - MAC指令(Mobile Air Conditioning Directive)
EUの自動車エアコン規制。GWP150超の冷媒禁止を段階的に導入し、R134aからR1234yfへの移行を促進。 - EU Fガス規制
高GWP HFCの削減・廃止を目的としたEU独自規制。2024年改正で完全廃止へのロードマップと新たな割当対象(MDI)追加を導入。
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