2024年改正Fガス規制では、販売禁止・サービス禁止の範囲が大幅拡大。ヒートポンプ需要の高まりと冷媒供給制限のバランスが課題に。
EUの新しいFガス規制では、冷媒のクオータ削減と並行して市場投入禁止(バン)が強化されました。前回改正よりも対象や詳細が増え、GWP(地球温暖化係数)基準による用途別禁止が明確に打ち出されています。これは、フェーズダウンによる供給制限と合わせて、高GWP冷媒からの移行を市場に強く促すものです。
特に注目されたのが輸出禁止です。2025年から、EU市場で販売できないGWP1000以上の冷媒を使用するRACHP機器は、輸出も禁止されます(図15参照)。複数冷媒対応設計の場合は、最もGWPが低い冷媒で評価されます。背景には、欧州市場で陳腐化した高GWP機器が途上国市場に流れる「ダンピング」への懸念があります。
ヒートポンプはEUの脱炭素化政策の柱であり、特に化石燃料暖房からの転換に不可欠です。市場は急成長中ですが、Fガス供給不足が懸念され、一部技術では2025〜2029年に限定的な追加クオータが検討されています。問題が指摘されているのは12kW未満の小型分割型(スプリット)で、2027年からGWP150制限が適用されます。現在主流の高圧冷媒R32に代わる低GWP高圧冷媒は存在せず、A3冷媒(炭化水素など)の可燃性もメーカーの責任リスクを高めます。一方、同規模の空気-水モノブロック型はすでに多くがR290(プロパン)に移行しており、2032年の全面Fガス禁止も大きな障害にはならないと見られます。
サービス禁止も強化されます。2025年から、小型冷凍機ではGWP2500超のバージン冷媒が使用禁止となり、古いR404Aシステムが直接対象になります。さらに2032年には上限がGWP750に引き下げられます。空調・ヒートポンプ設備のサービス・保守も2026年からGWP2500制限が適用されます。ただし、回収・再生・リサイクル冷媒は引き続き使用可能です。
今後の展開とインパクト
- 2025年の輸出禁止により、高GWP機器の途上国市場流入が抑制される一方、EU外市場向け製品戦略の見直しが必須。
- 2027年以降、小型分割型ヒートポンプの低GWP化技術の開発競争が加速。
- サービス禁止によりR404Aやその他高GWP冷媒を使う旧設備の早期更新需要が発生。
- 冷媒の再生・リクレーム市場が重要な役割を担い、循環利用のビジネス機会が拡大。
重要キーワード3つの解説
- GWP(地球温暖化係数)
二酸化炭素を基準とした温暖化影響の指標。数値が高いほど温暖化効果が大きく、規制対象になりやすい。 - 輸出禁止(Export Ban)
EU市場で販売禁止となった高GWP機器を、EU域外にも輸出できなくする措置。2025年からGWP1000以上の機器が対象。 - サービス禁止(Service Ban)
規定以上のGWPを持つ冷媒の使用を、既存設備の保守・修理でも禁止する措置。再生・リサイクル冷媒は例外。
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