イギリスとアイルランドが見せた「ヒートポンプ逆転劇」──欧州の中で唯一伸びた理由とは?

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他国が販売減に悩む中、なぜこの2カ国だけが成長できたのか。成功のカギと今後の可能性を読み解く。

Ehpa によると2024年、ヨーロッパの多くの国ではヒートポンプの販売台数が前年比で22%も減少しました。エネルギー政策の不安定さや補助金の見直しなどが影響したと見られます。そんな中、異なる動きを見せたのがイギリスとアイルランドです。両国ではヒートポンプの導入が逆に増加し、他の国々とは対照的な結果となりました。

イギリスでは、まだ導入率自体は低いものの、「Boiler Upgrade Scheme」と呼ばれる補助金制度により、一家庭あたり最大で約7,500ポンド(約8,600ユーロ)の支援が行われています。しかも、この制度では性能基準を満たした機器に限定され、ガスボイラーと組み合わせたハイブリッド型は対象外。こうした明確なルールが、消費者や事業者に安心感を与えています。

さらに注目すべきは「政策の一貫性」です。他国が政策を頻繁に変更する中、イギリスは比較的安定したメッセージを発信し続けてきました。この一貫性が、サプライチェーンや設置事業者の信頼を支えたのです。

成長の理由は補助金だけではありません。ヒートポンプ設置に関わる技術者の育成も本格化しました。2024年にはトレーニングを受けた人の数が前年比15%増加。まだ不足しているとはいえ、「人が足りないから普及できない」という状況から脱却し始めています。

一方のアイルランドも、政策の安定性が功を奏しています。新築住宅ではすでにヒートポンプが標準化されており、1,000世帯あたりの導入率でヨーロッパ第5位に。今ではリフォーム市場にも拡大しており、炭素税の引き上げと連動した手厚い補助金が後押ししています。

ただし課題もあります。アイルランドでは手続きが煩雑で、設置までの流れがわかりにくく、コストもかかるため、一般家庭にとっては少しハードルが高いのが現状。政府は現在、その改善に取り組んでおり、2025年以降、よりスムーズな導入が期待されています。

今後の展開としては、アイルランドでは年間5万台の導入が目前に迫っており、政府の住宅・リノベーション目標が達成されれば、2030年には年間10万台も視野に入ってきます。イギリスも、技術者の育成と制度の継続により、さらなる成長が見込まれます。

この両国の事例から学べるのは、「完璧な制度」ではなく、「政策・情報・実行体制」のバランスが取れた国こそが、エネルギー転換を前に進められるということ。他のEU諸国にとって、イギリスとアイルランドは単なる成功例ではなく、「変化が可能である」という証拠なのです。

重要キーワード3つの解説

  1. Boiler Upgrade Scheme(ボイラーアップグレードスキーム)
     イギリス政府が提供する補助金制度。最大7,500ポンドまで支給され、化石燃料を使った暖房システムからヒートポンプへの切り替えを促進。明確な基準があるため、消費者に安心感を与えている。
  2. 政策の一貫性
     政策が頻繁に変わると、消費者も企業も「様子見」になりがち。イギリスとアイルランドは、数年間にわたり安定した方向性を示し続けたことで、導入が進みやすくなった。
  3. 技術者の育成(インストーラー不足への対応)
     ヒートポンプは設置の難易度が高く、専門知識が必要。イギリスではその育成を本格化し、2024年にはトレーニング受講者数が15%増。これは導入を支える“土台”づくりであり、他国にも必要な動き。

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