環境保護と技術革新を両立へ。自然冷媒R290・CO₂が電気自動車の新たな主役に
2025年4月、中国政府の5つの中央省庁が連名で発表した「2025〜2030年 国家モントリオール議定書実施計画」により、2029年7月1日からすべての新型乗用車(M1カテゴリ)の車載用エアコン(MAC)で、地球温暖化係数(GWP)150を超える冷媒の使用が禁止されることが正式に決まりました。これは中国がモントリオール議定書とそのキガリ改正によって掲げた国際的な約束を履行するための重要なステップです。
対象となる冷媒には、現在中国国内で主流のR134a(GWP: 1,530)も含まれます。これにより、CO₂(R744)やプロパン(R290)といった自然冷媒への転換が急務となり、中国政府は「EVの熱マネジメントシステムにおける自然冷媒の研究と活用を積極的に支援する」とも明記しています。
実際に、自動車メーカーのドンフェン(東風汽車)や長安汽車(CCAG)をはじめ、Midea WellingやShanghai Highlyなどの部品メーカーがすでにR290やCO₂を使った新しい空調システムを開発中。オート上海2025でも次世代型のヒートポンプと一体化したMACシステムが多数出展され、中国国内外の注目を集めました。
この新規制は欧州のMAC指令とよく似ており、EUが2017年に全面施行した「GWP150超の冷媒禁止」政策に追随する形とも言えます。しかし、中国はより厳格な監視体制やリサイクルシステム整備、冷媒販売ルートの登録制などを盛り込むことで、規制だけでなく技術・流通・人材育成までカバーしています。
EVの普及率が高まる中(2024年時点で中国の新車販売の約半数がEV)、2029年にはEVが80%を占めると国際エネルギー機関(IEA)は予測。この流れとMAC冷媒規制が合流することで、EV開発のあり方そのものが変わる可能性が高いです。
重要キーワード3つの解説
- GWP(地球温暖化係数)150規制
GWPとは、温室効果ガスの地球温暖化への影響を二酸化炭素(CO₂)を基準にして数値化したもの。GWP150以下という規制は、環境影響の少ない冷媒の採用を強制するものです。2029年からは、中国で販売されるすべての新型乗用車がこの基準を満たさなければなりません。 - 自然冷媒(R290・CO₂)
GWPが非常に低い自然由来の冷媒。R290(プロパン)はGWP 3、CO₂(R744)はGWP 1と、従来の冷媒よりも圧倒的に環境負荷が少ない。EVの航続距離向上や寒冷地でのヒーター効率アップなど、性能面でも大きなメリットがあります。 - EV向け熱マネジメントシステム
単なる冷暖房にとどまらず、バッテリーや電動モーターの冷却・加熱、熱回収まで含む統合的なシステム。自然冷媒とヒートポンプ技術の導入により、EVの航続距離や快適性、安全性を飛躍的に向上させる要素として注目されています。
今後の展開とインパクトの可能性
このGWP150規制により、中国は“脱フロン冷媒”の世界的リーダーとなる可能性があります。単なる法的義務ではなく、グリーン技術の国家戦略として、冷媒から車両全体の設計思想までを塗り替える動きが本格化します。
また、規制の施行と同時に、政府は研究開発支援、補助金、国家カタログへの収載などを通じて自然冷媒関連のイノベーションを後押ししています。これは国内サプライヤーにとっても国際市場への競争力強化のチャンスです。
最後に、日本やアメリカの自動車メーカーにとっても、この動きは無視できません。将来的に、環境対応冷媒がグローバルスタンダードとなる中、中国がその標準を先導する構図になる可能性すらあるのです。EVの時代は、エンジンから「空調」へ。これからの競争軸が、ひとつ変わりつつあります。