健康と快適性を守る国際基準が進化、2022版からの変化と今後の可能性
住宅の換気と室内空気質の最低基準を定めるASHRAE 62.2が、2025年版として大きく改訂されました。従来の2022年版が規定の整理や気密性の強化を中心としていたのに対し、今回の改訂は「健康リスク低減」「感染症対応」「改修での実装性」を前面に打ち出しています。
まず注目すべきはフィルタ基準の強化です。これまでのMERV 6からMERV 11へと引き上げられ、より微細な粒子を捕集できるようになりました。これにより、アレルギーや呼吸器疾患へのリスク低減が期待されます。さらに、新たに導入されたIAQプロシージャは、従来の単純な換気量基準に加えて、汚染物質濃度や曝露リスクを直接評価できる設計手法であり、より柔軟で性能重視の設計が可能となります。
また、これまで義務ではなかったトイレでの局所排気が必須化され、臭気や湿気管理の徹底が図られます。さらに、吸気口と排気口の距離要件が一部緩和され、都市部の狭小住宅や改修案件における設計自由度が広がりました。
加えて、空気清浄機に関してはオゾン発生規制が導入され、副生成物による二次汚染を防ぐ方向にシフトしています。ダクト設計においても「水力直径」から「等価直径」に置き換えられ、より実務的で精度の高い計算が可能になりました。さらに建築施工面では、地下や基礎部分における地面被覆(グラウンドカバー)の義務化が追加され、土壌由来のラドンや湿気対策が一層強化されています。
そして特筆すべきは、ASHRAE 241準拠の感染症エアロゾル管理が付録として追加された点です。COVID-19の経験を踏まえ、住宅設計にも公衆衛生の観点が組み込まれたことは、今後の住宅評価に新しい価値をもたらす可能性があります。
今後は、フィルタや換気製品の需要増加により住宅設備市場が拡大するとともに、リフォーム分野でも新たなビジネス機会が生まれるでしょう。さらに、空気清浄機市場は「低オゾン・高性能」技術へのシフトが加速すると予想されます。これらの動きは、住宅を単なる居住空間ではなく、「健康を守るインフラ」として再定義する大きなインパクトをもたらすかもしれません。
重要キーワード3つの解説
- MERV 11フィルタ
微小粒子まで捕集できる性能を持ち、従来よりも高いレベルで健康リスクを抑えることが可能に。特に花粉やPM2.5対策に有効。 - IAQプロシージャ
換気量だけではなく、実際の汚染物質濃度や曝露リスクを評価する新手法。性能ベースで設計できるため、柔軟な換気計画が可能。 - 地面被覆(グラウンドカバー)
住宅の基礎部分や地下に敷かれる被覆材。ラドンや湿気といった土壌由来の汚染を防ぐための重要な対策であり、今後は施工の必須要件となる。